Bookレビュー2011-vol.51 小出裕章『原発のウソ』

原発のウソ (扶桑社新書)

原発のウソ (扶桑社新書)

原子力の専門家」による「反原発論」。

原子力発電や、それによって起こっている被害についての解説は詳しく、その解説を全て「反原発」の論拠としている。
原発をやめる手立てとしては、「とりあえず止める」という案を提示している。
これについては、一理ある。
お金と同じで、電力は「あるから使える」のであって、「無ければ使えない」。
お金と違って借金もできないので、無ければ本当に使えない。
つまり困ったとしても、「困った」という被害しか発生しない。
(経済的な損失が生まれたり、困った果てに自殺する人は出るかもしれないが)

ただ、論旨で首を傾げる部分はかなり多い。

例えば、「原発を全て止めても電力は足りる」と書いているのに、「我々はエネルギー消費を抑えるべき」と書いている。
一方で、日本は資本主義社会だと述べていて、高い電力価格が国際競争力の低下や産業空洞化を招いていると問題視している。
しかし、著者が主張しているような「エネルギー消費を抑える社会」では、国際競争力の低下は起こるので、これを問題にするのはおかしい。

また、原発は発電時には二酸化炭素を出さないが、発電以外の段階で二酸化炭素を出すと主張している。
これは当たり前だ。
太陽光パネルだって、風力発電だって、発電機を作るときは二酸化炭素が出る。
それぞれ設備の維持管理にも二酸化炭素は出る。
人間がウチワで扇いだって、二酸化炭素は出る。
そもそも、原発の問題に二酸化炭素までひっぱり出す必要はないのではないか。

これに関連して、原発が温暖化にもたらす影響についても触れている。
原発は発電エネルギーとは別に、放熱で1秒間あたり70トンの水を7℃も上昇させているという。
日本で年間1000億トンという表記があるので、計算してみると、これは原発1基あたりの量だと思う。
これだけ読むと、大変な気がする。
一方、Wikipediaによると、地球の海水は13.7億立方kmらしい。
これをトンに換算すると、1,370,000億トンだ。
なので、年間1000億トンの海水を7℃上昇させている日本の原発の放熱によって、海水全体で平均して上昇するのは0.0005℃である。(もちろん原発は日本だけでなく世界中にあるが、本書は日本の原発政策についてしか書かれていないのでここでは考えない)
仮に原発が普及した過去40年間でこの40倍の0.02℃の海水温上昇が起きていたとしても、それで地球やそれを覆う大気が何℃上昇するというのか。

もちろん、温度が平均化するまでの間は一時的に高温の海水が一部に固まって存在するので、それは生態系に影響は与えるだろうが、それは温暖化とは別の問題である。

総じて、本書は反原発を主張するための話の持って行き方にムリが目立ちすぎ、逆に「そこまで屁理屈を持ってこないと原発に反対できないのか」という印象が拭えない。

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