Bookレビュー2011-vol.52 津田 大介、牧村 憲一『未来型サバイバル音楽論』

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1970年代以降の音楽の歴史と、これからの音楽について考察した本。

音楽はこれまで技術的な変化の影響を受け続けてきた。

そもそも音楽とは、演奏の一瞬にだけ出現し、一瞬後には消える「瞬間芸術」であり、人の記憶に残るだけだった。
それを保存可能にしたのは「楽譜」である。
それ以降、レコード、CD、デジタル技術などにより、音楽は「保存」と「複製」の性能がどんどん高まり、現在に至る。

本書でも論じられているように、音楽も美術も文学も医学も工作も、それらは元々は1つの「技=ラテン語でars(アルス)」であった。
「ars」は英語の「art(芸術)」の語源でもある。

例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチは絵画、彫刻、土木建築、工学。医学といった分野で活動していたが、これらは当時にしてみれば1つ、あるいは近接した分野でしかなかった。

しかし、それぞれの分野が高度化するにつれ、その「技=ars」は分業化、専門化していくことになる。
音楽家と作家と芸術家が分かれ、さらに音楽家の中でも「作曲家」「演奏家」に分かれていく。
その後、音楽は「作曲」「作詞」「編曲」「演奏」「著作権管理」「音源製作」「商品製造」「マーケティング」「流通」「小売」といった細かい分業体制の中で行われるビッグビジネスになった。
しかし現在ではCDの売上はピーク時だった1990年代の半分以下まで現象し、かと言って音楽配信はそれを補うほど成長していない。

一方で、ライブやグッズ販売は近年伸び続けているという。
また、TwitterUstreamYoutubeなどのツールや、コンピュータによる音楽制作環境は、現在の分業体制から、「ars」へ回帰できる可能性を広げている。

この傾向は、今後、音楽以外の「ars」にも同様に起こるだろう。