Bookレビュー2011-vol.53 ムハマド・ユヌス『ソーシャル・ビジネス革命』

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

本書は、ソーシャル・ビジネスへの誘いであると同時に、ソーシャル・ビジネスを志す若い人々へのエールである。

本書では、ユヌス氏の成功体験だけではなく、失敗談、そしてどうやってそれを乗り越えたかについて多くのページが割かれている。
また、資金調達のノウハウなど、通常の「自伝」や「企業本」では書かれない部分についても触れられれている。
そして、最も重要なのは、ソーシャル・ビジネスの定義について厳格に定めている点だ。
まさに「ソーシャル・ビジネスの教科書」と言っても良いだろう。

ソーシャル・ビジネスが重視しているのは、「社会問題の解決を目的とする」「利益ゼロ・配当ゼロである」という2つを前提としながら、あくまで「ビジネス」であることだ。
ここには2つの重要な意味が含まれる。

1つは、そのサービス・商品が無償で一方的に渡ったのではなく、双方が価値を認めて初めて成り立つという点だ。
買う側は「欲しいものを買った」し、売る側は「買ってもらえるものを売った。しかも、買って欲しい人に」。

2つめは、ビジネスであるが故に、責任が生じることだ。
そのためソーシャル・ビジネスは「持続可能性」が重視されることになる。
そして、ビジネスの持続はすなわち「雇用の持続」でもある。

一方、最大の困難もまたビジネスであるために生まれる。
つまり「いかにすればビジネスとして成立するか」だ。
ソーシャル・ビジネスはこの難問に立ち向かわざるを得ない。

しかし、これこそ「"ビジネスとして成立するもの"をビジネス対象とする"営利ビジネス"」との最大の違いでもある。
ソーシャル・ビジネスをビジネスとして成立させることができたときの喜びは、計り知れないに違いない。