Bookレビュー2011-vol.37 鈴木貴博『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』

「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱

「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱

ワンピースとガンダムから考える世代論。
僕はガンダムを良く知らないので、誤認があるかもしれない。

本書では、2011年時点において、ガンダム世代をおよそ40〜50歳、一方、ワンピース世代をおよそ23〜32歳(個人的には20〜30歳ではないかと思うが)と定義している。

ガンダムの主人公であるアムロは、地球連邦政府に所属しながら、ジオン軍と戦う。
地球連邦政府は「地球に住める」という既得権の集団であり、少なからず腐敗した組織だ。
一方、「宇宙移民」の集団であるジオン軍のほうが理想を求める組織である。
そんな設定において、アムロは個人の考えよりも組織を優先し、地球連邦という組織のために戦う。
これが、個人の考えよりも組織を優先するガンダム世代の価値観を形成したという。

一方、ワンピースの主人公であるルフィは海賊であり、いかなる組織にも属さない。
ルフィにとって大事なのは仲間であり、もっとも偉大なのは自由である。
これが、組織よりも(心から分かり合える)仲間を優先するワンピース世代の価値観を形成したという。


また、ガンダムには「ニュータイプ」と呼ばれる「新しい人類」が登場する。
ニュータイプ」は、テレパシーのような能力を持ち、ニュータイプ同士で意思の疎通を行うことができる。主人公のアムロも「ニュータイプ」である。
実は、このガンダム世代は若いころ、団塊以上の世代から「新人類」と呼ばれた経験を持っている。
しかし、ガンダム世代は所属する組織を優先する価値観のために、旧来の社会に馴染んでいく。
それでも、気持ちを通じ合うことのできる「ニュータイプ」への憧れは消えていない。
「オレの気持ちも察してくれよ」というガンダム世代の中間管理職のぼやきは、ここに由来している。

一方、ワンピース世代は、ケータイに始まり、mixiTwitter、といったソーシャルメディアを駆使することで、組織と関わりなく、仲間との意思の疎通を当たり前のように行っている。
つまり、ワンピース世代こそ、ガンダム世代が憧れた「ニュータイプ」そのものである。
このワンピース世代をガンダム世代は羨ましいと感じているが、自分を殺して組織を優先してきたガンダム世代は、個人のメディアであるmixiTwitterをワンピース世代のように自由に使いこなせない。


ガンダム世代の憂鬱」は「板ばさみ状態」にある。
旧来の経済成長を前提とした社会構造では、団塊世代は受益できても、ガンダム世代はそうはいかない。
一方、「ワンピース世代の反乱」による新しい社会構造が生まれても(既に生まれつつあるが)、ガンダム世代はその社会に馴染めない。
しかし、企業社会に組み込まれる形でしか自分を確立できないガンダム世代には、自分たちで旧来の社会構造を壊すこともできない。

一方、ワンピース世代は、社会構造を壊すつもりはない。
そこに組み込まれること自体を拒否する。
組織は必要ないのだ、仲間さえいれば。