創造し続けるための、健全なスピリチュアリティ
『食べて、祈って、恋をして』の著者、エリザベス・ギルバートさんの講演動画を見た。
「エリザベス・ギルバート "創造性をはぐくむには"」
http://www.ted.com/talks/lang/jpn/elizabeth_gilbert_on_genius.html
クリエイターは、作品を創り続けるうちに、自分の才能がどんどん枯渇していくように感じる。
もし、自分の作品がヒットをすれば、次回作はそのヒット作と比較されざるを得ない。
その時、クリエイターは「あれ以上のものが、自分に創れるだろうか」という不安に駆られる。
そうした「才能は自分の中にあり、自分の中にしかない」という認識は、クリエイターを苦しめ続けてきた。
ギルバートは、そうした認識に疑問を持ち、解決方法を調べていくうちに、古代ギリシアと古代ローマに行き着いたという。
そこには、今の人々とは違った「才能(ジーニアス)との付き合い方」があった。
古代ギリシアの宗教観は多神教である。
多神教においては、神は相対的であり、絶対的な存在では無い。
古代ギリシアでは、人やモノに宿る「神性」を「ダイモーン」と言ったそうである。
これは「デーモン(=悪魔)」の語源でもある。
つまり、「ダイモーン」は「善性」ではなく、あくまで「霊性」だ。
これは「アニミズム」という、万物に霊が宿っているという考え方とほぼ同一である。
「アニマ」とは「魂」という意味であり、「アニメーション」は、この「アニマ」を語源としている。アニメのキャラクターに萌えている人は、単なる映像に萌えているのではなく、その「アニマ(=魂)」に萌えているわけだ。
日本でも、自然やモノに霊性を見出す文化が根強い。
代表的なものに「つくもがみ(「九十九神」、あるいは「付喪神」と書かれる)」などがある。
この日本の宗教観については、以前もこのブログで書いた。
【以前の記事】
日本人は無宗教どころか、トイレにまで綺麗な女神様がいるんやで。
話を戻すと、古代ギリシアにおけるアニミズムの化身である「ダイモーン」は、古代ローマでは「ゲニウス(genius)」と呼ばれた。
これが、「天才・才能」を意味する英語の「ジーニアス(genius)」の語源である。
古代ローマは、独自の宗教・文化をほとんど開発せず、ギリシアからの輸入に頼ったため、こういった例は多い。
例えば、古代ギリシアの女神アフロディーテは、古代ローマではウェヌスと呼ばれ、英語ではヴィーナスという。また、ヴィーナスは金星の呼び名でもある。
このような、古代ギリシア・ローマの神々、および惑星との対応表は、下記のサイトが詳しい。
『ギリシア・ローマ神話』神名対照表
http://zatsubundou.fc2web.com/dt_godname.htm
この「神」というよりは「霊性」というべきローマの「ゲニウス」は、ギリシアの「ダイモーン」とは異なり、「善性」的な意味合いが強い。wikipediaでは、こう解説されている。
名前のついた神話内の神々は、全て何らかのゲニウスだった。しかしさらに、個々の人間が持つ理性的な力と能力はその魂に起因するものとされ、それもゲニウスとされた。個々の場所にもゲニウス(ゲニウス・ロキ)があり、それゆえ火山などの力の溢れるものがあるとされた。この概念はさらに拡張されていき、劇場のゲニウス、ブドウ畑のゲニウス、祭りのゲニウスといったものが考案された。これらのゲニウスはそれぞれ上演の成功、ブドウの実り、祭りの成功を司るとされた。古代ローマ人にとって、何か大きなことを成し遂げようというとき、対応するゲニウスをなだめることが非常に重要だった。(wikipediaより抜粋)
この
個々の人間が持つ理性的な力と能力はその魂に起因するものとされ、それもゲニウスとされた。
という部分が、まさに「才能(=ジーニアス)」である。
古代には、「何か大きなことを成し遂げようというとき、なだめることが非常に重要」なほどに霊的だったはずのジーニアスは、中世ルネサンスの「神秘を排した(過剰な)人文主義」により、人間の内部に取り込まれたと、ギルバートは言う。
ここに、
「才能は、自分の中にあり、自分の中にしかない。それを発揮するかどうかは自分の努力次第だ。上手くいかないのは自分が悪い」
という現代の価値観の発端がある。
そして「その価値観が500年もの間、クリエイターを殺し続けてきた」とギルバートは言う。
そこで、彼女はこう提言する。
「もう、そういう価値観で苦しんだり、苦しめたりするのはやめよう。やるだけのことをやったら、あとはジーニアスに任せるしかない。そしてそれは、あなたの中にはいない。単なる精霊(=才能)のきまぐれなのよ」
これは、日本では「人事を尽くして天命を待つ」と言う。
日本にも「天命」という「ゲニウス」がいるということである。
このスピリチュアルな考え方の「健全性」を担保しているのは、「才能はきまぐれ」という「諦め」にある。
一方、不健全なスピリチュアルは、悩むクリエイターに、こう言うだろう。
「この『きまぐれな才能』を、自分の思い通りにできる方法があるわ。300ドルでどう?」
百歩譲って、たとえ人の心や、幸せがお金で買えるとしても、「ダイモーン」も「ゲニウス」も「ジーニアス」も、お金では味方にできない。
だってお金は、人間世界でしか使えないのだ。
僕たちに唯一できることは「やるだけのことはやった」という「諦め」である。
【本文中に提示した以外の参考資料】
wikipedia「ダイモーン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%B3
wikipedia「ゲニウス」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%82%B9
wikipedia「付喪神」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%98%E5%96%AA%E7%A5%9E
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