最強書店アマゾンの「ストーリーとしての3つの戦略」

先日、初めてアマゾンのマーケットプレイスに出品した。
そこで気付いたのは、アマゾンの戦略の合理性、つまりストーリー性である。
それをまとめてみたい。


第1の戦略「ロングテール


アマゾンに強みをもたらしている第1の戦略は、ロングテールである。
しかし、これについてはすでに広く知れ渡っているので、ここでは深く触れない。
ただ、残り2つのストーリーを生み出す起点は、このロングテール戦略であることは押さえておく必要がある。


第2の戦略「マーケットプレイス

ロングテールからつながる第2の戦略は、マーケットプレイス、つまり中古販売だ。

日本では現在、年間に約5〜6万点が、新商品として書店に並ぶ。
しかし一方で、書店に流通する書籍は、約50万〜60万点で一定している。
つまり、約5〜6万点が増える一方で、年間約5〜6万点の書籍が絶版などによって書店流通から消えていることになる。

当然ながら、この消えていく年間5〜6万点の書籍こそが、アマゾンのロングテールが強みを発揮できる部分になる。
しかし、アマゾンといえども、絶版になっている書籍は一般の書店流通では仕入ができない。
そこでアマゾンは、中古販売という形で、そのロングテールを支配しているのだ。
しかも、その一般書店では扱えない「絶版ロングテール」は、年間5〜6万点のペースで増えていく。

さらにアマゾンは、その中古販売をマーケットプレイスという形態で展開している。
マーケットプレイスとは、個人が所有している中古書籍をアマゾンに登録=出品し、買い手がつけば、出品者が直接、購入者に送付するシステムだ。
つまり、アマゾンは在庫コストはおろか、梱包や出荷コストも負担しない。

一方で、アマゾンはマーケットプレイスで1つの成約につき160円(書籍の場合。モノにより異なる)と、購入価格の15%を手数料として得ることができる。

一般書店の書籍販売のマージンは20%である。
1000円の本を売れば200円が収益だ。
一般書店の場合、その200円の中から、店舗の家賃や人件費といった経費を捻出しなければならない。

一方、マーケットプレイスで1000円の書籍に買い手がついた場合、アマゾンは「160円」+「販売価格の15%である150円」=310円の収益を得ることができる。
つまりマージン率は31%になる。
しかも、梱包したり発送するのは出品者なので、アマゾンのコストはゼロだ。
以上のように、マーケットプレイスは、一般の書籍販売をはるかに超える収益性を持っているのである。

しかし、基本的に低単価である中古販売が、高単価の新品販売に悪影響を与えることはないのだろうか。
実は、それを補う第3の戦略がアマゾンにはある。


第3の戦略「新刊予約」

マーケットプレイスからつながる第3の戦略は、新刊予約である。

中古販売の問題点は、新品の販売量の低下である。
この問題に最初にぶつかったのは、CD業界やゲーム業界だった。
そこで、これらの業界では、新品の事前予約が強化された。
CDの新譜に強力なプロモーションがされるのはそのためだ。
一度発売してしまえば、その瞬間から中古品が流通し、価格は下落する。
であれば、発売前にどれだけ販売を確保するかに重点が置かれるのは当然と言える。

しかし、書籍業界の場合、取次による委託配本制度により、書店は事前には自店に何が何冊入荷するかを把握することができない。
それゆえ、予約を受けても、予約数を確保できない可能性がある。

また、書籍の発売日というのは非常に曖昧で、文庫やコミックでも1ヶ月前にしか発売が決まらない。
2ヶ月前に決まっていた発売日も、平気で延期される。
著者ですら、自分の本の正確な発売日を知らないという恐ろしい業界である。
また、年間5〜6万点、つまり「1日あたり200点以上の新発売」について発売前からプロモーションし、同時に予約数を管理するのは、非常に困難である。

以上のような事情により、一般書店は発売前の予約には非常に消極的にならざるを得ない。


一方、アマゾンはその圧倒的な流通量と倉庫の規模、豊富で信頼性の高い販売データ、ITによる予約管理により、人気書籍の商品確保を可能にしている。
アマゾンでは発売数週間前には、マイナーな書籍でも商品登録され、予約注文することが可能になる。

この新刊予約によるプロモーションによって、新品の十分な量の販売が可能になっているのだ。


結論としては、アマゾンの強みは、どんどん増加していくロングテールマーケットプレイスでカバーしながら、一方で予約受注と言う形で新品の販売も確保しているという、2重構造にある。

こうなると、一般書店には「発売されてから、中古品が出回るまでの一瞬」だけしか出る幕がないのである。